津本 陽「椿と花水木 万次郎の生涯 上・下」読後メモ

(古い小説であること、史実とフィクションが混じり合っている点には注意が必要)

 ジョン万次郎の名は子供のころから知っていたが、何となくロビンソン・クルーソーの日本版ぐらいにしか思っていなかった。
 それが、この本を読んで、今さらながらに知ったのは、幕末の漁村に生まれ本来なら寺子屋教育すら受けられなかった少年が、ピューリタン精神溢れるアメリカ人捕鯨船船長の善意から、アメリカ東部のニューイングランドで、今で言えば国際線パイロットにも匹敵するような航海士としての教育を受けることとなり、攘夷・開国と揺れる幕末・維新の日本で英語通訳・米国通として活躍したという史実。船酔いで寝ていた勝海舟以下の日本人乗組み員の代わりに米国人便乗者と協力して咸臨丸の操船までしたとは。
 こんなカッコいい話を今の高校日本史などではどう取り扱っているのだろう。

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戸津井康之「終わらない戦争 復員船「鳳翔」 〝終戦〟までの長き航路」読後メモ

 戸津井康之「終わらない戦争 復員船「鳳翔」 〝終戦〟までの長き航路」という本を読んだ。以下、読後のメモ。

 「日本海軍で空母として設計された最初の艦船(空母として設計されたのは世界でも初めてだという)が、ほとんど奇跡的に終戦までほぼ無傷で生き残り(1945年7月28日の米軍機1千機による呉空襲でも江田島島民による擬装のおかげで標的にならなかったという)、復員船として約1年間9回もの航海を果たす。その船に通信員として乗り組んだ山本重光氏(元海軍二等兵曹、2023年1月没、享年96)の話を軸に、これまで戦後史の中で埋もれていたとも思える復員船業務に光を当てたノンフィクション。珊瑚会(海軍経理学校三十五期(1945年3月卒業)同期会)編「あゝ復員船-引揚げの哀歓と掃海の秘録」(騒人社、1991年発行)に載せられた手記からも多くの引用あり。
 著者の思い入れのせいか重複する記述が多く、同じことに関する新聞記事を何種類も読んでいるような感じがしてくる本ではあるが、あまり大きく取り上げられてこなかった史実を丹念に追求した努力には敬服。空母「鳳翔」についてはどこかで読んだかもしれないが、記憶には残っていないし、戦後復員船となったことも知らなかった。南極観測船「宗谷」が復員船として運用されたこともこの本で初めて知る。「里の秋」という童謡も題名だけでは思い出さないが、その2番、3番が復員、引揚げを主題としたものだというのも共有すべき発見だろう。

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投資信託の基礎知識

 自分にとっては常識のようなことでも、他人にとってそうでないこともある。

 私にとって投資信託の基本的な仕組みなどは常識の範囲内だが、必ずしもみんながそうではないということに気づいた。そこで、投信の基礎知識をできるだけわかりやすく書いてみようと思った。以下の文章がそれ。

目次

 

1.はじめに

 投資はあくまで自己責任です。

 誰かが言った通りに、何かに書いてある通りに、投資したとしても利益が出るとは限りません。

 ただ、最低限知っておいた方がいいことはあります。スポーツのルールのようなものです。スポーツと同じで、ルールを知っているからといって勝つ(利益が出る)というわけではありませんが、全く何も知らなければ何をやっているのかわからなくて、面白くないですよね。

 以下の説明は、投資信託を初めて購入する人への、私個人の思いつくままのアドバイスです。「最低限」がすべて網羅されている保証もありませんが、少しは参考になると思います。

2.投資信託とは

 投資信託(略して「投信」)とは、普通の人がプロにお金の運用を任せるための金融商品です。次のA、B、Cという三種類の会社が登場することを知っておくといいと思います。

A.販売会社 

 投信は、銀行、信託銀行、証券会社などで買う(購入)することができます。換金・解約もそこでします。投信を売る会社を「販売会社」と言います。窓口で口座を作って、買うのはネットでやるのがいいと思います。ネットで買う場合、販売手数料がゼロになるものが結構あるからです。

B.運用会社

 お金の運用をする人は「ファンド・マネージャー」と言われ、「○×投信」とかいう会社に所属しています。この会社が「運用会社」と言われ、株や債券などを売ったり買ったり、市場調査したり、運用成績をまとめたりしています。でも、お客さんのお金を実際に預かったり、証券などを管理したりすることはしません。

C.受託会社

 お金を預かったり、証券を管理したりするのは信託銀行の証券管理部門がやります。この会社を「受託会社」と言います。

 A、B、Cどの会社がつぶれても、自分のお金を投資した資産がなくなってしまうことはありません。Aの販売会社は投信を売ったり、解約に応じたりしているだけ。Bの運用会社は株や債券を買ったり売ったりする指図をしているだけで、社内でお金を預かったり証券を保有したりはしていません。Cの受託会社がお金を預かったり、証券を保有したりしますが、あくまでお客さんのものとして分別管理するので、自社の資金繰りにそれを使うことはありえません。受託会社の役目はそういう仕事が得意な信託銀行がやりますが、信託銀行は販売会社として登場することもあるので、少し紛らわしいかもしれません。

3.投信で得をするとはどういうことか

普通の人が投信を買って得をしたり、損をしたりするのは、いろいろなケースがありますが、以下に3つだけ例を挙げます。

  • 現金1万円で投信を購入、1年後に全部解約したら、現金1万2千円になった。2千円の得。
  • 現金1万円で投信を購入、1年後に全部解約したら、現金8千円になった。2千円の損。
  • 現金1万円で投信を購入、1年後にその評価額をネットで調べたら、1万2千円になっていた(評価益=含み益が出ている)。これは得をしたと思って、全部解約したら、解約した日に市場相場が急落し、現金8千円しか返ってこなかった。昨日付けでは2千円の評価益が出ていたが、解約した日に大きく価格が下がったため、結局2千円の損(実現損失)となった。

4.投信を安く買って高く売るのは株より難しい?

 投信も株と同じで安く買って高く売れば(換金・解約すれば)、利益が出ます。

 しかし、投信は株と違って、日中常時、価格が変動しているわけではありません。投信の価格は市場が閉まった後で1日に1回、売り買いの申込みも締め切った後で決まるという仕組みになっています。だから、今日自分の持っている投信を解約したら現金いくらになるかということは事前にわからないということになります。有名な会社の株なら、日中常に売り買いされているので、売るとき「指値(さしね)売り注文」(価格いくら以上で売るという注文)をすれば自分の利益がいくら以上になるかすぐ計算することができますが、投信を解約するときには価格いくらで解約できるかわかりません。   

 「じゃあ損しないように解約するにはどうしたらいいんだ?」ということになりますが、自分の持っている投信の昨日付けの評価額を調べて評価益が出ている状態であることを確認し、それからその投信が投資しているもの(株?債券?どの国?どういう株?どういう債券?等々)の市場が今日の日中、昨日より下がっていないことを確かめれば「たぶん損しないで解約できるだろう」ということになります。*1

5.投信の手数料、費用

 投信には手数料や費用がかかります。

 手数料や費用は投信によって全然違うし、同じ投信でもどこで買うかによって手数料が違うことも多いです。

販売手数料

 投信を買うときに販売会社である銀行や証券会社に払う手数料です。ネットで買う場合は、少し調べると販売手数料がゼロ(「ノーロード」と言います)の投信もたくさんあることがわかります。全く同一の(投信の名前も同じ)投信でも買う銀行・証券会社によって手数料額が違う場合があるので気をつけなければなりません。

信託財産留保額

 投信を解約するとき、自分の持分のうちのほんの少しだけを残さなければいけない形の投信があります。残した分は自分にとっては「損」ということになります。これを信託財産留保額と言い、投信により何%と決まっています。留保額ゼロの投信もたくさんあります。

運用・管理報酬

 運用会社や受託会社の人たちの給料等々の経費は、投信を買った人が払ったお金から定期的に差し引かれていきます。これも投信ごとに何%差し引かれるかが公表されますが、実際には投信の価格に反映されてしまうので、普通の人にとってなかなか意識しにくいものです。投信の目論見書(もくろみしょ)を見ると書いてあります。

6.私は個人的にどうしているかという参考例

 以下は私の個人的な考えの一部を紹介するもので、それもあくまで私のリスク判断に基づくものです。いいかどうかは自分で考えていただくしかありません。こうすれば得すると言えるものでもありませんが、参考例にはなるでしょう。

販売手数料ゼロの投信を探す

 手数料がゼロですから、その分お得です。それだけではありません。販売手数料ゼロということは、売る立場の銀行・証券会社から見ると、「売るのに手間がかからない」ことを意味しています。つまりお客さんに対して難しい説明が要らないということです。ということは、わかりやすい投信であるということです。例えば日経平均株価にほとんど連動して価格が変動するだけの投信とか。お昼のニュースを聞くぐらいで、自分の投信が今日上がるか下がるかだいたい予測できます。逆に複雑な運用手法を駆使しているような投信はお客さんへの説明も大変なので、説明の手間賃である販売手数料も高いということになります。そういう投信は概してハイリスク・ハイリターンの(利益が出るときは大きく儲かるけれど損するときは損失額も大きい)ものが多いです。

信託財産留保額ゼロの投信を探す

 解約するとき、すべてを換金して戻してもらえますから、それに越したことはありません。また、留保額ゼロということは、運用会社から見ると、お客さんがたくさん解約して困るという心配があまりないような投信であることを意味します。従って、安全度の高い投信である可能性が高いです。逆に、特別な分野に投資するとか、難しい投資方法を駆使して運用するような投信は留保額が設定されることが多いです。リスクが高いかわりに上がったときの儲けも大きいというものは、買うお客さんが限られているので、留保額を設定するのでしょう。

自分でこまめに売ったり買ったりするのでなければ「バランス型」にする

 一般的に、株が上がると債券が下がり、株が下がると債券が上がることが多いです。かつ、株の価格変動幅と債券の変動幅では株の方が大きいことが多いです。株と債券に半分ずつ投資するバランス型投信を買えば、株が上がったときにも得をするし、株が下がったときの損は債券の値上がり分だけ少なくなるということが言えるという考えです。株だけに投資する投信と比べて、株が上がったときの利益は少なくなる(債券の価格変動幅は小さいからたぶん利益ゼロにはならない)が、株が下がったときの損失も少なくなるだろうということです。バランス型にもいろいろあり、半々ではなく株の比重を高くしているものや低くしているもの、国内・海外という切り口を加えて国内株・海外株・国内債券・海外債券という4分割型のもあります。

特別なものへの投資は少額にする

 投信がどうしてものすごい数の種類があるかというと、いろいろな考えを持つファンド・マネージャーたちがそれぞれ、何か独創的なテーマを探して新しい投信を企画するからです。例えば、これからはAI(人工知能)の時代だからAI開発に熱心な企業の株だけに投資する投信とか……。その投信の考えに個人的に賛同する場合は、その考えを応援する気持ちで、少額買ってみます。

 でも、その企画は大きく当たる可能性もあれば大きく外れる可能性もあり、リスクは高いと考えた方がいいです。また、そういう投信は、販売手数料も高く、信託財産留保額もあり、運用・管理報酬の率も高いものが多いです。

税金のこと

 投信を解約して利益が出たときや、利益分配金をもらったときには、約20%の税金がかかります。特定口座という種別にしておけば、銀行や証券会社で自動的に税金を支払ってくれます。NISA(非課税制度)を他で使っていなければ、投信で使うといいと思います。

7.具体的にはどんな投信?

 固有名詞は書きませんが、私が相当額を投資している投信で、多くの人が買っているものがどんな投信かを紹介します。単に紹介するというだけで、こういうのを買うと得をすると言っているわけではありません。

 すべて某大手信託銀行の投信口座で、ネットで買っています。ときには一部換金しますが、これらはこれまで全額解約をしたことはありません。

 大手信託銀行のネット取引は、頻繁に売買する人にとっては必ずしも使いやすいとは言えませんが、いろんな意味で信頼度は高いのではないかと思っています。

  • バランス型(国内株・国内債券・海外株・海外債券の4資産均等)
  • 日経225インデックス連動型
  • TOPIXインデックス連動型
  • 国内債券インデックス連動型

 以上、ご参考になれば幸いです。

*1:と書きましたが、例外があります。ETF(Exchange Traded Funds、日本語では「上場投信」)と呼ばれる投信があり、これは証券取引所で日中売買されていて、株と同じように時々刻々値段が変わります。但し、ETFの購入・売却は株の売買と同じ方法で行うので、証券会社に株式売買のための口座を開かないとできません。指値注文も可能なETFは魅力的な金融商品ですが、一般の投信とはずいぶん違うのでここでは詳しく触れません。

お役所の人は皆、外部との公用デジタルチャネルを持っているのだろうか?

 ここ1、2か月、都内某税務署の担当者様とやりとりしている。やりとりの手段は電話、FAX、郵便だ。

 電子メールという選択はない。その税務署には担当者が公用で外部と電子メールのやりとりをするためのシステムインフラがないのだ。もちろん、その税務署に限らず、日本全国、多くの税務署がそのような状況だと想像される。

 どこかのITベンダーが今頃、全国の税務署に電子メールを導入するプロジェクトの提案書を作っているのならよいが、デジタル庁の誰かさんのエクセル表の300行目あたりに書かれているだけだとちょっと困る。

 

「DXとデジタル化の違い」説明できなくてもいい

 日経電子版(日経クロステック)の2021年9月21日記事に「DXとデジタル化の違い 『説明できない』管理職が7割」とある。説明できないことがそんなに問題だろうか。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は、「IT(情報技術)を利⽤して製品やサービス、ビジネスモデルやビジネスプロセス、さらには組織や業界構造を刷新する取り組み」を指し、デジタル化は、「既存の仕組みや設備をデジタルに置き換えること」で「主に業務の効率化を目的とする」と言うが、紙をデジタルにするだけでも事務フローは大きく変わるのが普通だ。電子メールが初めて導入されたとき、すべてのメールを部下にせっせと印刷させていた上司がいたが、そんなことは長続きしない。他社のまねをして電子メールを導入しただけでも、社員の意識は変わり、仕事のやり方は変わる。ハンコのデジタル化にしても、電子化そのものを究極の目的としてやるわけがない。人は皆、そのアイデア・新技術を仕事にどう活かすか、UX、CX、EXをどう変えるか、すなわちビジネスの刷新につなげるべく、頭を働かすものだ。

 名前や定義にとらわれずに、まずは検討してみる、やってみることだと思う。