常盤新平「遠いアメリカ」(講談社文庫)読後メモ

講談社文庫版はもう古本でしか入手できないらしいが、今は小学館から出ているようだ)

 昭和真っ盛り(と言っても昭和は長かったから人によって思い浮かべる年代は違うがここでは昭和30年代)の青春物語。何しろ主人公の名は「重吉(ジュウキチとしか読めない)」、その恋人は「椙枝(スギエ)」だ。「ネクタイをズボンのベルトがわりにした中年の男が」というような今では想像しがたい記述も出てくる。

 私も英語のペーパーバックに興味を持って古本屋を回ったりしたことがあるものだから、そんなことにハマってしまった主人公の気持ちはわからなくもない。でも、さすがにそれで生きていこうとは考えなかったし、たぶんそんな勇気というか無鉄砲さみたいなものは持っていなかったんだと思う。学生時代、重吉ほどは怠惰な毎日も送らなかったし、結局文学部へも行かなかった。

 ストーリーは終始暖かみがある雰囲気の中、善意ある人たちに囲まれて展開、準ハッピーエンドを迎える。どういうふうにして「常盤新平」という人ができあがったかがよくわかる。