松尾義之「日本語の科学が世界を変える」(筑摩選書)読後メモ

 著者は「日経サイエンス」の編集者を長く務めた科学ジャーナリスト。著者によると、日本人の科学者が日本語で考えて科学をするのはすごいことなのだという。そうだからこそ、日本人科学者のノーベル賞受賞が続出しているのだという。

 それを結論づけるために、著者の博識に基づく広範な科学史のこまごました事実が掘り起こされ記述される。それを知るだけでも興味深い。

 物理、化学等々の知識の乏しい私にはわかり難い箇所もあるが、ざっくばらんな科学評論をリラックスしながら聞いている感じで読み進めることができた。

ジョン・ル・カレ「スパイはいまも謀略の地に」(加賀山卓朗訳、早川書房)読後メモ

 イギリスの国論を二分したブレグジットの議論のさ中、前線からロンドンに帰ってきた中年のスパイが、家の近所のスポーツクラブで対人関係には不器用だが情熱的なバドミントン好きの青年と個人的に知り合う。バドミントンはあくまで個人的な趣味で、仕事とは関係ないのだ。

 一方、仕事の方は閑職に回されて、結構できそうな新入りの部下にも突然辞められてがっくりしていたら、自分の得意分野で思わぬチャンスが降ってきて、結構張り切る。

 そして終盤にかけて、驚くべき展開となり、最後のページまで何がどうなるかわからない。というか、最後のページを読み終わっても正確にはわからない。真実は人によって違うというのが、著者のメッセージなのだろうか。

青山透子「隠された遺体 日航123便墜落事件」(河出書房新社)

 文章はあまり上手とは思えないが、事の真実に迫ろうとする著者の熱意が伝わってくる。

 この人の書くことすべてに今納得するわけではないが、私もこの事故については少し疑問を持つようになった。例えば、今年も朝日新聞に、発生から41年目を迎えるこの事故に関連する記事が複数掲載されていたが、私の見た限り(見落としがあるかもしれないが)この事故の原因に関する記述が全然なかった。これでは事故をリアルタイムで知らない若い人などは、そもそも何の話かもわからないで終わる、そもそも読み始めても意味がわからないから読むことすらしないという可能性もあるのではないか。

 何かが本当に隠されているのであれば、JALという会社、自衛隊、ひいては日本の政治に対する疑念が生まれてくるのも無理もない。この本に書かれていることへの明確で具体的で同レベルの論理性を持った反論があれば読んでみたい。

森村誠一「老いる意味 うつ、勇気、夢」(中公新書ラクレ)読後メモ

 2023年に亡くなったベストセラー作家、森村誠一が自分の経験も踏まえてサラリと書いた高齢者生活読本。書いたとき著者は88歳の誕生日を迎える頃だった。

 著者が老人性うつ病と認知症を乗り越えて、前向きに生きる姿には見習うべきものがある。子どもの頃から本をたくさん読み、コツコツ努力を重ねてきたことも、彼の底力になっているのだろう。

 少しクセはあるが、高齢者生活初心者のガイドの一つとしてずいぶんと売れたようだ。

森永卓郎「がん闘病日記」(株式会社三五館シンシャ)読後メモ

 2025年に亡くなった経済アナリスト、森永卓郎の本。題名の通り、著者のがん闘病が主題ではあるが、文章の端々にこの人の生き方、実体験などが垣間見えて興味深い。

 一言で言えば、やりたいことをやって生ききったという感じか。あとがきにも書かれているが、「人生でやり残したことがほとんどない」のだそうだ。

 一般受けする経済アナリスト、評論家、タレントとして大成功し、ミニカー、グリコのおまけ、空き缶等々のB級コレクションを続けたばかりか、その博物館まで作ってしまい、他にも短歌を作ったり、歌を歌ったり(カラオケでだけでなく大ステージでも)、童話を書いたり、農業までしたとなれば思い残すところがないというのもうなずける話だ。

 新所沢にあるという、「B宝館」という博物館にも行ってみようか。

大川章裕「『病気知らず』の体をつくるビール健康法」(幻冬舎メディアコンサルティング)読後メモ

 赤ワインに動脈硬化を防ぐ効能のあるポリフェノールが含まれていることは、よく知られているが、ビールにもポリフェノールが含まれているという。もう少し細かく言うと、ビールに含まれているポリフェノールはキサントフモールとイソフムロンというもので、キサントフモールには抗酸化作用、心血管保護作用、抗がん特性などの効果があり、イソフムロンには認知症を防ぐ効果もあるという。

 もちろん、著者はビールのがぶ飲みを勧めているのではなく、1日1本のビールを提案、ビールだけでなく一緒に取る食べ物にも気を配り、そのレシピまで書いている。また、著者は医者だけあって、壮年期、老年期に気になってくる生活習慣病や骨粗しょう症等々、健康と栄養に関する知識を惜しげなく披露してくれる。

 著者が薦めるビールの種類はIPA(India Pale Ale)だが、IPAに限らずいろいろなビールの銘柄を具体的に提示してその特徴を教えてくれる。「ピルスナーウルケル」(チェコ)だとか「インペリアルチョコレートスタウト」(日本)だとか、知らなかったビールに興味が湧いてくる。著者は相当なビール好きである。

俵 万智「生きる言葉」(新潮新書)読後メモ

 言わずと知れた「サラダ記念日」の短歌で大ヒットした現代歌人の、言葉に関するエッセー。個人的には、この人の自己肯定感半端ない自慢話はあまり好きではない。

 しかしもちろん、読むべきところはたくさんある。その一つで思わず付箋を貼ったのは、200ページから始まる「10 そこに『心』の種はあるか」と題された部分。言語学者の川添 愛氏との対談の話が書かれている。川添 愛氏と言えば「ヒトの言葉 機械の言葉」を書いた人。AI(人工知能)が吐き出す言葉と人が言ったり書いたりする言葉について考えさせてくれた人だ。

 俵氏もここで、AIがすることは「結局は言葉から言葉をつむぐ作業だ。生きた人間である私たちが目指すのは、心から言葉をつむぐこと。AIが1から100を生むのを横目に、自分は0から1を生みたいと思う」と書いている。クリエーターとしての人間の行為を適格に定義できているのではないかと思う。